松美池に停泊中の博士号
博士号(はかせごう、はくしごう)は、筑波大学の筑波キャンパス内にある松美池に設置されている足漕式のスワンボートである。
目次
概要[]
博士号の前方部分
博士号は2013年10月15日に筑波大学の筑波キャンパス内にある「松美池 (正式名称:松見上池)」の水面に筑波大学の学生の手によって設置された、足漕ぎペダル式の2人乗りスワンボートである[1]。
博士号には外装、内装ともに大学のロゴや詳しい注意書き、安全マニュアルや救命胴衣等が備え付けられており、多数の学生が学内の研究室が設置したものであると誤解し、これに乗船しようと試みた。
設置翌日の16日には、大学の学生生活課は安全上の理由から設置者に対して撤去を求めた。設置者はこれに応じてヘリウム風船による浮力を用いてボートを空中に浮かせる方法で撤去を試みるが、何者かによってレーザー光線を発射され風船が割られる事件が発生した[2]。
29日には、博士号はクレーン車につり上げられて一旦陸上に引上げられ、松美池の岸壁に設置された[3]。
翌月11月6日には、いったん陸に上げられた博士号を、再度池に浮かべるためのプロジェクトとして、筑波大学学生支援室が主催する「つくばアクションプロジェクト」事業に『松美池アヒルボート「博士号」の復活企画』が登録された。企画の提出者は同大学の院生の登大遊であり、企画は大学によって承認されており(承認番号13071A)、企画書によると2014年1月以降に本格運用が開始されることと記載されている[4]。
設置から陸揚げまで[]
設置当初[]
筑波大学松美池および博士号
博士号の搬入の際には大学に対して前もって連絡がなく、また、ボート本体には設置者の所属や連絡先の記載などがなかった。博士号の外装には、大学の校章や「IMAGINE THE FUTURE.」のロゴなどが塗装されていたことから、学生生活課は当初は学内研究機関の物品ではないかと考えて学内各所に連絡をとったが、学内の施設はすべて関与していないことが判明した[5]。
博士号の内部には救命胴衣、安全冊子、多数の注意書きやイラスト、「松美池の遊泳地図」、太陽電池によって音楽が鳴る電子オルゴール装置などが取り付けられていた。また、船体には「新型水質浄化装置実験中」という文字も記載されていた。これらのことから、博士号はどこかの研究室が設置したものであると誤解する者も多かった。ボートの内部には「緊急時以外使用禁止 どうしても使用したいときは、自前で点検した後に、自己責任で使用すること。」と記載されており、使用時の注意事項を記載したマニュアルも備え付けられていた。
博士号に乗船し運転中の様子
設置の翌日の2013年10月16日には台風26号の影響により大学は全面休講となったが、何人もの学生が乗船を試みた。大学職員は、博士号を監視して乗船をしようとする者に乗船を控えるように注意喚起を行うなど、監視をすることとなった。乗船に成功した後に、大学職員に中断させられた者もいた[5]。「博士号に乗ったら学生課に怒られた」という報告も寄せられた[6]。
撤去要請[]
筑波大学新聞の学生生活課に対する取材によると、2013年10月16日夜には「博士号」を設置した学生が学生生活課を訪れて状況を説明した。
設置した学生はSNS等により乗船を試みる学生が注意されたり、大学職員が困惑している様子を把握したために訪れたとされる。学生生活課によると、設置した者は在学生であり、学内規則を熟知しており、路上に物品を放置することは禁止されているが、水上に関する規定が無いことを理由に設置したという[5]。
学生生活課は安全上の理由から、設置した学生に対して即時乗船が不可能となるように対策を講じることを求め、設置した学生は自らの手で養生テープと立入禁止の張り紙を施して乗船をすることができない状態にした。また、学生生活課は設置した学生に対して博士号の撤去を要請した。博士号を設置した学生の氏名等は公開されていない。
引き上げ準備[]
2013年10月19日には「博士号」の停泊している岸壁に「アヒルボート 博士号 撤去工事」と記載された工事用立看板が設置された(撤去用看板の写真)。
工事用立看板には、「特記事項」として『本工事におけるアヒルボートは0.2トンあり、極めて重い。参加する学生に人身事故等が生じたり対象物が損傷等したりのしないようにすることが最優先であるから、多少時間を要することになるとしても、可能な限り最大限に安全な方法および工事技術を採用して撤去作業を行わなければならないことに注意を要する。』と表示されていた[7]。
2013年10月22日には「博士号」の撤去工事看板の前に「撤去用現場作業机」(写真)および2脚のパイプイスが設置された。撤去用現場作業机には「撤去責任者」および「コンプライアンス監理者」の名札があり、机の上には「松美池からのアヒルボート引き上げ方法の検討書」が設置されていた。検討書(検討書の写真)によると、引き上げ方法として、『① 人力のみで引き上げる。② 引き上げやぐら(油井やぐらのようなもの)を建設し、滑車で引き上げる。③ クレーン車で引き上げる。④ 浮き輪やバルーンのような資材と気体とを用いて、浮力の補助を得て引き上げる。⑤ 池の階段にスロープを仮設して引き上げを容易にする。』の5種類の方法がイラスト付きで記載されていた[8]。
ヘリウム風船による引き上げの試行[]
ヘリウム風船によって撤去が試行される博士号
2013年10月24日には博士号に「間もなく越冬」というプレートおよび15個のヘリウム風船が取り付けられた。また、博士号の撤去工事看板に『「博士号」を安全かつ確実に持ち上げる方法について、数名の博士号(学位)所持者に相談しましたところ、「浮力」として「バルーン」を用いるのが水陸双方で負荷軽減効果があり大変良いのではないかという助言がありました。バルーン1個につき約0.3kgの浮力が得られるそうですので、バルーン666個で200kgの「博士号」を持ち上げることができるとのことです。そこで早速、試験的にバルーン約15個を本体に装着しました。計算上は、これで約4.5kgの浮力を得ることができています。今後もバルーンを追加し、空中浮遊を目指しますが、至らない場合であってもできるだけ大きな浮力を得たいと考えています。なお、バルーンおよび充填ガスは適正に購入したものであり、大学の貯蔵ガス等を使用したものではありません。』と新たに記載されていた(看板の写真)[9]。
風船をレーザー光線で割らないように求める注意書き
しかし、翌2013年10月25日には博士号に取り付けられたバルーンが何者かによってレーザー光線を発射され風船が割られる事件が発生し、撤去は完了しなかった。風船をレーザー光線で割らないように求める注意書きが撤去用看板に追記された(写真)[2]。
クレーン車による引き上げと陸への設置[]
クレーン車によって撤去される博士号
2013年10月29日にはクレーン車が松美池の畔に登場し、博士号を引き上げた[3]。
その後、博士号は松美池の湖畔に設置されている。
復活計画の企画および大学による承認[]
2013年11月6日に、いったん陸に上げられた博士号を、再度池に浮かべるためのプロジェクトとして、筑波大学学生支援室が主催するT-ACT(つくばアクションプロジェクト)事業に松美池アヒルボート「博士号」の復活企画 が登録された。企画の提出者は同大学の院生の登大遊であり、企画は大学によって承認されており(承認番号13071A)、企画書によると2014年1月以降に本格運用が開始されることと記載されている[4]。
デザイン・仕様など[]
外装[]
松美池の湖畔に設置されている博士号
スワンボートの表面に塗装が施されている。
入口付近には「IMAGINE THE FUTURE.」および「WORLD'S BEST UNIVERSITY.」という大きな文字が、船体横には「博士号」および「40周年記念」という文字がペイントされている。また、筑波大学の校章が貼り付けられている。
船尾には「新型水質浄化装置実験中」という文字が記載されている。前方には、複数の花がペイントされている。
内装[]
運転席には、「緊急時以外使用禁止 どうしても使用したいときは、自前で点検した後に、自己責任で使用すること。」と記載されているほか、「米国渡航時は要ESTA申請」、「禁煙」といった文字が貼られている。
中心部には松美池に生息する虫(写真)と松美池のガイドマップ(写真)が記されている。座席部分には筑波大学出身の3人のノーベル賞受賞者の写真が並べられ、操縦用のハンドルが付いている(写真)。
また、以下の内容の「アヒルボート利用時の注意事項」というマニュアルが貼り付けられている(写真)[7]。
- 定員2名、合計140kgまで。できるだけ2名で利用し万一の事故の際に直ちに相手を救護できるようにすること。1名で利用する場合は陸上から別の者が注視すること。
- 晩方以降は使用禁止。船内で睡臥しない。飲酒後や泥酔時には絶対に使用しない。
- 船内での飲食禁止。特にプリンの持込は絶対に禁止させていただきます。
- 船体と陸地や水中工作物との間に身体を挟まれないよう注意。
- 船体によじ上ったり、不安定な状態で乗ったり、首の部分にしがみついたりしない。水面が浅い環境においては、転倒事故の危険性がある。
- 船内で立ち上がらない。身体を乗り出さない。具備されたイス以外に座らない。
- 自己または第三者に自己損害が生じないよう注意。出航時が安全確認。
- 船体の下に人や動物が韜晦していないかどうか十分確認してから出航すること。
- いたずらにスピードを出さない。みだりに船体を岸壁等に衝突させない。
- 池の場合は汚水が身体にかかったり眼や口腔に入ったりしないように注意し、万一の場合は直ちに水でよく洗ってから医師に相談する。
- ライフジャケットを着用すること。ライフジャケットが船内に見当たらない場合にあっては、自弁のものを使用すること。
- 接岸後は直ちにロープで岸壁または係留用ポールに係留すること。
- 公園等に備え付けられている遊具等とは異なり、このボートは民法に定める土地工作物ではない為、利用時の損害責任はすべて利用者に帰属することとなりますから十分に注意してください。
- 専門業者以外の陸揚は禁止。適切な処置を執らずに行うと故障の恐れがあります。
- 小さな子供やお年寄りは、保護者の監督下で使用すること。
- 使用前に安全を自己確認し、使用中も安全に配慮すること。
船内設備[]
船内には安全に関する冊子が備え付けられている(写真1、写真2)。また、船内後尾には救命胴衣および胴付長靴が備え付けられている。
電子装置[]
屋根には電子オルゴールが設置されており、音楽が鳴っている(写真)。音楽を録音したYouTubeビデオによれば、クリスマスソングがループ再生されている。
批評[]
一般の評価[]
博士号に関する写真等は、Twitterを用いて学外にも多数拡散し、一躍、学内外の人気者になった[1][6]。
大学関係者による評価[]
筑波大学が刊行し、学内外に配布している筑波大学新聞の第310号(2013年11月5日)1面に、博士号に関する取材記事と写真が掲載された。同紙の学生生活課への取材によると、博士号は大学の許可を得ずに浮かべられ、「IMAGINE THE FUTURE.」の記載は、「大学の所有物だと見せかけ、いたずらを防ぐために描いた」ものであるとされる。
筑波大学新聞の取材によれば、『ほのぼのとした悪ふざけに、心が温まった。撤去されるのが少し寂しい』という意見があった[1]。
株式会社リクルートホールディングスの記事によれば、Twitter上では『松美池のほとりをチャリで何度駆け抜けたことか…続報まで見ると尚のこと愉快です』、『桐の葉塗装とか、相当気合入ってるのな』、『博士号乗りたい!』といった意見が書き込まれた[6]。
筑波大学人文学類哲学主専攻宗教学コースのあしやまひろこは、『学生の自主的行動によって、大学を盛り上げようとする気持ちは理解できるが、容易に移動できず、管理や安全等の問題の発生する物品を、あたかも大学公式の物品のように装って誤解を招き、設置者を明らかにせず無許可で放置する行為は、配慮を欠いていると言われても仕方がないかも知れない。船内の設備にも、配慮と共に「悪ノリ」したような記述がみられ、設置者の学生が貼付した立入禁止を知らせる張り紙には、「松美池アヒルボート「博士号」寄附事業 OB有志一同 (大学と協議中)」とあるが、これは学生生活課の説明と異なり、責任転嫁だとしたら許される事ではないだろう。とはいえ、消息筋からの情報を聞くに、水面下での計画の立案、スワンボート購入や加工に関わる相当額の費用の捻出、保守点検の準備、ステッカーの発注等からも見えるように、学生たちの熱意と実行力は壮大なものである。壮大な洒落は、ある種の壮挙とも言えるだろう。だが引っかかる部分も大いにある。今後とも、学生や関係者によって筑波大学がますます盛り上がる事を期待するが、大学や関係者に大きな迷惑がかからないよう、十分に考慮する必要もあるだろうし、例えば米国の名門大学等では良質ないたずらが恒例であるように、大学当局にも適切な対応を望まれたい。』と述べている[5]。
脚注[]
- ↑ 1.0 1.1 1.2 『松美池にスワンボート』 筑波大学新聞 2013年11月5日
- ↑ 2.0 2.1 『安全上のお願い』 2013年10月25日
- ↑ 3.0 3.1 テンプレート:Twitter status 2013年10月29日
- ↑ 4.0 4.1 松美池アヒルボート「博士号」の復活 承認番号13071A つくばアクションプロジェクト 2013年11月6日
- ↑ 5.0 5.1 5.2 5.3 筑波大学松美池に現れたスワンボート「博士号」の真相 あしやまひろこのブログ 2013年10月17日
- ↑ 6.0 6.1 6.2 大学の池にアヒルボート出現で騒然 r25 2013年10月22日
- ↑ 7.0 7.1 筑波大学松美池に現れたアヒルボート「博士号」まとめ クロノファクトリー 2013年10月29日
- ↑ 『松美池からのアヒルボート引き上げ方法の検討書』 2013年10月22日
- ↑ 『バルーンの試験的な装着についての文章』 2013年10月24日
関連項目[]
- 筑波大学筑波キャンパス
- 折田先生像(京都大学)
- Hacks at the Massachusetts Institute of Technology(マサチューセッツ工科大学で行われている同種の悪戯)